倉敷要約筆記サークル 永瀬順子
「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」これは私が以前見て感動した映画のタイトルだ。ドラマ奏者として活動していた男が、ある日突然聴力を失う。そこから始まる苦悩、絶望、孤独。それでも人生は続いていく。聴覚障害者のコミュニティで過ごすことになった彼に与えられた課題は二つだけ。早朝にコーヒーの用意をする。そして、日々のありのままの気持ちを文字にする.静寂の中でひたすら自分と向き合うのだ。その時にかけられた言葉の中にあったのが『何も成し遂げなくてもよい』…この言葉が私の心に深く響いた。常に成果を求め他人からの評価を気にしながら生きている自分や、思い通りにいかない人生を少し悔やんでいる自分に優しくそっと寄り添ってくれた気がした。同時に「気持ちに寄り添う」とは一体どういうことなのか改めて考えるきっかけにもなった。相手を励ましたり助言を与えるのではなく相手の立場に立とうとする。経験したことのない痛みを理解するのは難しい。それでも想像してみる。もし自分だったら…。それは同情ではない。映画のラストシーンは教会の鐘が鳴り響く公園のベンチ。男はそっと人工内耳の体外パーツを外す。再び静寂に包まれた男の表情は穏やかだ。決意に満ちた顔にも見える。きっと自分の中にある課題をひとつ乗り越えたのだろう。差し当たって私の今の課題は要約筆記の技術を磨くことではあるが、その中には大前提として「気持ちに寄り添う」が含まれる。