「 改正 障害者差別解消法の施行 」

岡山県聴覚障害者センター 所長 西條 保幸

 令和3年に改正された障害者差別解消法が今年4月に施行されました。これまで努力義務とされていた事業者の合理的配慮の提供が義務化されたことが注目されましたが、本法の考え方について特筆すべき点を挙げておきたいと思います。

▽社会モデルに基づく障害の解消

 差別解消法では社会モデルに基づく障害の解消という考え方が採用されています。この社会モデルでは健常者にも障害があると考えられます。例えば、行く手に断崖絶壁がある場合、健常者でも上がることはできませんが、階段をつくれば上がることができるようになります(障害は解消された)。さらにエレベータを設置すれば、車イスの人も上がることができます(同じく障害は解消された)。社会モデルでは、医学的な障害のあるなしに関わらず社会には多くの障害があり、その解消に対して健常者と障害者の間には程度の差があるだけで基本的には同じことと考えます。しかしこの社会では、健常者に対して既に多くの社会的障害が取り除かれているので、障害のある人に対しても合理的配慮の提供や環境の整備によって社会的障害を取り除いていこうとするのが差別解消法の考え方です。もちろん、この障害の意味するところは施設や設備に留まらず、制度や慣行、観念なども含まれます。

▽建設的対話について

 基本方針を読んで、なるほどと思ったのは建設的対話の重要性です。法が施行されても合理的配慮の提供は、障害のある人から「社会的なバリアを取り除いて欲しい」という意思表示があり、「その実施に伴う負担が過重でないとき」に実施されるとされています。では、経費がかかりすぎるなど負担が過重であるときはどうするのか?基本指針は、障害のある人と事業者間の対話を通じて相互理解を深め、共に対応案を検討していく建設的対話が重要であるとしています。なあんだ、と思われるかも知れませんが、平素の社会生活でも何らかの問題が生じたときには、双方が個別・具体的に真摯に課題に向かい合えば、大抵のことは解決できることを私たちは経験で知っています。差別解消法においてもこの考え方が重要だと示しています。

▽官公庁と事業者の取り組み

 この法律では、国の機関は基本方針に則して「国等職員対応要領」を定め、地方公共団体は「地方公共団体等職員対応要領」を定めるよう努めるとしており、岡山県でも「岡山県における障害を理由とする差別を解消するための職員対応要領」を策定済みです。また、事業者については、その事業者の主務大臣が「対応指針」を定めることとし、各事業者は対応指針を参考にして、障害者差別の解消に向けて自主的に取り組みます。さらに違反があった場合、主務大臣は事業者に報告、助言、指導若しくは勧告できるとされ、報告をしなかった事業者には罰則規定も設けられました。「前例がありません」「特別扱いできません」「もし何かあったら」「当社のマニュアル上」などの言葉で対応を拒否することは、法律上できなくなりました。

 今後は、不便なことがあったら合理的配慮をすることが当たり前じゃないか、という考え方が一般的になるように、ひとり一人が法の内容を理解し、自分に出来ることを実践していくことが求められているのだと思います。